的屋

小学校の通学に降り立つ駅にほど近く S貨物会社の駐車広場があり 下校時間ともなれば露天商が
小学生相手に店を出す「フーテンの寅さん」ばりに口上を言うのもあれば 黙々とものを作り並べる者もいて
人それぞれである 露天商のことを「的屋」(テキヤ)と呼び 実態はあまり芳しくない職業と認知されていた
商う品々も色々で 時代劇のような昔語りの口上はないものの「がまの脂売り」もいて
切り傷に効く軟膏として売っていたこともある 「ホクロ取り軟膏」のような怪しげな商品もあり
目の前で顔のホクロを米粒のようにぽろりと取るのを見せる 今考えるとまさに「子供騙し」である
パンタグラフの構造をした竹製の拡大器は 雑誌などの絵を拡大するための器具で 見本の絵が
とても子供が描けるような者でなく美術の心得がある者が描いた似顔絵などで
子供心にその器具さえ使えば そのようなすばらしい絵が描けるものだと「錯覚」させられた
その他「ブリキ製ポンポン船」(蝋燭の火でポンポンと音を立て走る)
針金細工の「輪ゴム銃」「三輪車」「自転車」や「樟脳」のような物を付けて走らせるセルロイド製の船
水鉄砲など小学生を充分惑わす商品がずらりで 親にねだってポケットに小遣い銭をねじ込み
喜び勇んで「的屋」の店に並ぶのである  しかしせっかく買っても「的屋」の存在は教育上問題視されていて
買った物を学校に持っていくのは全て禁止だった
sanrin
針金細工の三輪車