石炭風呂

昔は家に風呂が有ること自体珍しく 銭湯へ行くか近所の貰い湯だった
銭湯は駅の向こうにあり 子供の足では時間が掛かったので冬など湯冷めしてしてしまう
夏など陽の高い内にたらいにぬるま湯をはり 専ら行水するのみであった
それでもいつか我が家にも桶風呂が来て四畳半ほどの物置部屋におき煙突を付けた
風呂を沸かすのも子供の仕事で また湯が冷めないように 風呂から上がる時 十能一杯の石炭を
燻るのが家族間のマナーである 燃料の石炭はムシロで編んだ袋に入っていた

夕方ともなるとあちこちの家から石炭の煙が上がり その匂いはなぜかいい匂いとして記憶している
石炭その物も 後年は豆炭となり 蒸気機関車もテンダーに豆炭を積んでいたことを思い出す
良質の石炭が少なくなり 人工的に砕いた石炭を固めて作ったのだと思われ
現在木炭の代わりにオガ炭が市場に出回っているのと同じことかも知れない

豆炭はその後 豆炭行火の熱源として重宝し その後練炭もできて 木炭も使わなくなり
しばらくして 暖房は石油ストーブになり 行火は電気あんかになり 練炭はプロパンガスに変った
国のエネルギー政策が家庭に押し寄せてきたのである
無論 風呂はガス風呂となり室内からリモート操作出来るようになり 十能一杯のマナーは不要になった
furo