2019.05.14 岡山県真庭市鍋屋 (旧)遷喬尋常小学校(せんきょうじんじょうしょうがっこう)

遷喬尋常小学校は 学校建築の設計基準が確立する時代の明治40年(1907)に竣工した 独特な擬洋風校舎として
国の重要文化財に指定されている歴史的建築物で 設計は 当時岡山県庁内の唯一の建築技師であった江川三郎八によるものである

江川 三郎八(さぶろうはち)は 県議会議事堂や都窪郡役所・総社警察署など数多くの公共施設の設計や工事監督を担った他
県下の学校や医療施設の建築にも携わった 退職後は金光教団の嘱託技師となり 火災で消失した教団本部の再建に尽力した
また天満屋百貨店本館などの商業施設や個人住宅の設計にも多く関わっているが 戦災などで資料が失われ全容は不明である
三郎八の設計に顕在するのは 左右対称のルネッサンス形式とシンプルなアメリカンスタイルの外観で 江川式建築と呼ばれている

校名の「遷喬」は 中国の漢詩・伐木の一節「出自幽谷 遷于喬木」(幽谷より出で 高木に遷る)から採られ
ウグイスが深山の幽谷から飛び立ち 高い木に移る情景を詩った場面で 学業に励み立身出世することとされる
小学校の前身となる明治3年創立の郷学・明親館を名付けた儒学者の山田方谷により 「遷于喬木」の二文字をとり遷喬とした
同名で 明治5年創立の鳥取市立遷喬小学校とは姉妹校の縁を結び交流を続けている

中央棟の一階に玄関・職員室・校長室 二階に講堂を設け その両側に二階建ての教室棟が伸びるシンメトリー形式である
中央棟は玄関と左右の部屋を前面にせり出し マンサード屋根とふたつの破風を組み合わせたモダンな構成で
正面中央に独立したドーマーを設け校章の入る丸窓をひときわ目立たせる
軒下の真壁には ティンバーフレームを意匠として配置することで アメリカンテイストを表現する他
レンガ基礎に設けられた換気孔には 特製のくさび形煉瓦でアーチに組むなど 細部にまで凝った意匠が施される

校章は帆を張った高瀬舟で漢字の「久世」をデザインに取り入れている 開校時から大正12年(1923)まで使用されたが
その後は久世の「久」を上下に組み合わせ その中央に「小」の字を入れたデザインに変更した
廃校後の建築物保存のため 平成6年(1994)に化粧直しをした時 元の高瀬舟に復元した

当初はマンサード屋根の頂部に鋳鉄製のルーフクレスト(棟飾り)があったが 第二次大戦末期の金属供出により消滅した
2階の講堂の天井は 二重折り上げの洋風格子天井となっており 鏡板はすべて無節の檜柾目板である 腰壁板は無節の檜柾目板
廊下と講堂の床材は分厚い松材 戸の板壁は全面無節の杉材を使用し 檜と杉材は厳選の上 真庭郡木山村の国有林から運ばれた

工期は2年間と長く工費は17,984円56銭で 町予算の2.93倍もの巨額が投じられ そのうち11,500円は県からの貸し付けであった
平成2年(1990)に移転するまで校舎として利用されていたが 現在は文化施設・久世エスパスランドの付属施設として位置づけられ
教室は図書室・展示室に 職員室は会議室 講堂は集会室 校庭は屋外展示場や催場に貸し出されている

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1階廊下
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給食のヤカン 黒板用定規と分度器
大正12年から使われた校章
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2階廊下

講堂

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歪みがあるアンティークガラス
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立ち位置
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2階教室
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2階教室廊下
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校長室
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大時計と時鐘
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