2012.02.02  つらら(氷柱)

「つらら」とは 軒・岩角などに したたり落ちる水が凍って長く垂れ下がったものを表す大和言葉で
漢字表記では【氷柱】または【氷】を用いる その生成には極寒の気象条件の元で 氷結と氷解という相反する
作用が必要となり 寒暖がある程度繰り返される必要がある このことから「つらら」は晩冬の季語となる

古代万葉時代には たるひ【垂氷】と呼ばれ
枕草子に 「日ごろ降りつる雪の今日はやみて、風などいたう吹きつれば、たるひいみじうしだり」とあり
< 現代訳:何日も降り積もった雪が今日はやんで、風などがひどく吹いたので、氷柱がたくさん垂れている。 >
源氏物語の「末摘花」には 「朝日さす 軒の垂氷は解けながら などかつららの 結ぼほるらむ」とある
< 現代訳:朝日の差す軒のつららは解けたのに、どうして張り詰めた氷は解けないのでしょう >
今で言う「つらら」は「たるひ」で 当時の「つらら」は平面的に氷結した「氷」を表している

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「つらら」の語源は「ツラツラ」と考えられている 漢字で表せば「列列」・「滑列」・「滑滑」などが
考えられ「滑=つら」もまた氷を表す言葉で「滑滑」は「ツルツル」とも読むことが出来る
どちらにしても「ツラツラ」が転訛して「つらら」となった
その後「氷」が「凍る」から転訛して「こおり」となり 軒先に垂れ下がる「氷柱」が「つらら」となった

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「つらら」という言葉は 播磨国から畿内・四国辺りの言葉であったが 近世に尾張・美濃・三河・房総を通じて
江戸に入り明治以降に標準語となった経緯がある 古い言葉である「たるひ」は東北地方の太平洋側に広く分布し
柳田国男が その著書『蝸牛考』でとなえた「方言周圏論」を実証するように
近畿を中心としたほぼ同心円上に 「かねこおり」「ぼうだれ」「たるひ」などの「つらら」の方言が分布する

「つらら」の方言
あめんぼう(関東) たるき(越前・加賀) ぼうだれ・ぼんだら(能登) かねこおり(飛騨・越中・越後)
すが(西奥羽) たるひ(東奥羽) とろろ・つるる(相模・利根川流域) さがりんぼう(奥羽・北関東)
ちんぼうごおり(遠江・駿河) しみざえ・ざえ(出雲・隠岐) なんりょう(石見)
すまる・しもろ(長門・周防) もうがんこ・まがんこ(豊前) たろみ(肥前) ほだれ・ほだら(肥後)
その他 くらら・つずら・たろっぺ・たろんべ・ぼうだれ・ぼんだら・かなんぼう・しもがね・かなまら
すぐり・さがりんぼう・ようらく・びいどろ などがある 当然だが南国琉球には「つらら」を表す言葉は無い

上記のように 北部九州では「もうがんこ」と言い 日田市では「もがんこ」と呼ばれていた
「もうが」とは 牛に引かせる唐鋤のことで 「つらら」がこの「もうが」に似ていることから呼ばれたとされる
唐鋤を牛鍬(うしぐわ)と呼び習わし 牛鍬 → モー鍬 → 「もうぐぁ」 → 「もうが」となったと思われる
「もうが」も「もうがんこ」も 今では通じない言葉となってしまった

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