2009.09.26  ヒガンバナ(彼岸花)

学名:Lycoris Radiata ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草 別名リコリス

6枚の花弁が放射状につくことから 学名の種小名は「放射状」の意味を表す<Radiata>を使う
また別称の曼珠沙華(まんじゅしゃげ)は サンスクリット語の<Manjusaka>の音写である

花の名「彼岸花」は秋の彼岸ごろから開花することに由来する 主に群生し9月中旬頃赤い花をつける
稀に白い花をつけるものもある

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彼岸とは 煩悩や迷いに満ちたこの世の岸を「此岸」(このきし=しがん)と言うのに対して
煩悩を脱した悟りの境地 または「あの世」の岸を「彼岸」(かのきし=ひがん)と呼ぶことから始まり
春分と秋分を中日として 前後各3日を合わせた7日間を指す
最初の日を「彼岸の入り」 最後の日を「彼岸明け」という

春は「ぼた餅(ボタン餅)」 秋は「おはぎ(萩餅)」を作り先祖に感謝する
この仏事は 日本独特のものであり浄土思想に由来する 極楽浄土は遙か西方の彼方にあると考えられ
春分と秋分は 太陽が真東から昇り真西に沈むので 西方に沈む太陽を礼拝し
遙か彼方の極楽浄土に思いをはせたのが 彼岸の始まりと思われる

別称の「曼珠沙華」は法華経などの仏典に由来し「天上の花」という意味を持つ
仏教でいう曼珠沙華は「白くやわらかな花」であり ヒガンバナの外観とは似ても似つかぬ

この花は異名が多く「死人花」「地獄花」「幽霊花」「剃刀花」
「狐花」「捨子花」「はっかけばばあ」と呼んで 日本では不吉であると忌み嫌われることもある
一方欧米では園芸品種が多く開発され 親しまれている
園芸品種には赤のほか白 黄色の花弁をもつものがある
その他ヒガンバナ属=Lycorisには ショウキズイセン ナツズイセン キツネノカミソリなどがある

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草の全てが有毒で特に鱗茎にアルカロイド(リコリン)を多く含む
誤食した場合は吐き気や下痢 ひどい場合には中枢神経の麻痺を起こして死にいたる

一般的に稲作の伝来時に土と共に鱗茎が混入し広まった帰化植物と考えられているが
土に穴を掘る小動物を避けるため有毒な植物をあえて持ち込み植えたとも考えられている
水田の畦や墓地に多く見られるのは「ネズミ・モグラ・虫」など 土を掘り荒らす動物がその鱗茎の
毒を嫌って避けるように または虫除けや土葬後に死体が動物によって掘り荒されるのを防ぐため
人手によって植えられたためである ただしモグラは肉食のため無縁という見解もあるが
エサのミミズがヒガンバナを嫌って土中に住まないため この草の近くにはモグラが来ないともいう
しかし 鹿に球根を食べつくされた事があり 体の大きな動物には無害と言える

鱗茎は澱粉に富み 有毒成分であるリコリンは水溶性であるため
長時間水に晒せば無害化することが可能である 過去救飢植物として食用された事もあるが
中毒を起こす危険があり絶対に食してはならない
また鱗茎は「石蒜(せきさん)」という利尿や去痰作用のある生薬になるが 有毒なので民間療法として
利用するのは危険とされる このような有用性を熟知した上で人の手で移入を図った可能性も残る

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咲き方も特異である 晩夏から初秋にかけ花茎が葉のない状態で地上に突出し
その先端に5〜7前後の花がつく 落花後は線形の葉をロゼット状に出すが 翌春になると葉は枯れて
秋が来るまで何も生えない 開花期には葉がなく葉があるときは花がない
別名に「葉見ず・花見ず」とも言われる所以である 韓国では「相思華」という
花と葉が同時に出ることがなく「葉は花を思い 花は葉を思う」という意味である

日本に存在するヒガンバナは全て遺伝子的に同一で 三倍体植物の雌株である
三倍体とは種子を生じない不稔性で 自然界でもみられるが
種なしスイカやブドウ・バナナなど種無果実を人為的に作り出すのに利用される
故に日本に存在する彼岸花は 雄雌の区別が無く種子で増えることができない 遺伝学的には
大陸から伝わった一株の球根を日本各地に株分けしつつ 数千年を経て全国に広まったこととなる


学名の Lycoris とは ギリシャ神話の Nērēïs(ネーレーイス)の一人で
美しい金髪を持つ Nymphē(ニュンペー)で Lycōrias(リュコーリアス)と呼ぶ

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ネーレーイスはギリシア神話に登場する海に棲む精霊たちの総称で 海の老人ネーレウスと
オーケアノスの娘ドーリスの娘たちのことをいい 単数形ではネーレーイデスと呼ばれる
その数は50人とも100人ともいわれ エーゲ海の海底にある銀の洞窟で父ネーレウスとともに暮らし
イルカやヒッポカンポスなどの海獣の背に乗って 海を移動するとされた

ニュンペーとは ギリシア神話などに登場する精霊あるいは下級女神で 山や川・渓谷など自然界に宿り
これらを守る神とされ 一般的には歌と踊りを好む若く美しい女性の姿をしている
英語では Nymph(ニンフ)という
なおギリシャ語の普通名詞としては「花嫁」「新婦」を意味する
大半のネーレーイデスは独立の神話を持たず これらの叙事詩では名前を数え上げるために
海にちなんだ名や 水と関連する名をつけたとも推測されている

花言葉は 「悲しい思い出」「想うはあなた一人」「また会う日を楽しみに」

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