2023.03.20  ミツマタ(三椏)

ミツマタ(三椏)
学名は Edgeworthia chrysantha 属名の Edgeworthia は植物学者のマイケル・パッケナムエッジワースと
彼の異母姉妹である作家マリア・エッジワースに捧げられた名で
種小名の chrysantha はギリシア語で黄金を意味する chryso と花を意味する anthos による合成語である
英名の Oriental paperbush は 和紙の原料であることから命名された

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チベット・ヒマラヤ地方が原産地とされるジンチョウゲ科のミツマタ属に属する落葉性の低木である
中国語では ジャスミンに似た花の芳香から「結香」と名付けられ「ジェシィァン」と発音するが
わざわざそれを日本語に置き換えて 芳しさから「むすびきのはな」と言われることもある
和名のミツマタは その枝が必ず三つに分かれる性質があることから名付けられ 三枝や三又とも書かれる
三又の枝先それぞれに 葉が出る前の早春に丸く黄色い球状の集合花を咲かせ 3月中旬頃に見頃を迎える
また アセビ(馬酔木)と同様 鹿の食害が少ないと言われ 野生シカの忌避植物として
農水省にも認められ 近年では野生シカの侵入を防御する役割を担って
耕作放棄地などの山間部や森林内に新たに植栽されることが多くなっているが
アセビの毒作用に対し ミツマタを忌避する理由は定かではなく あくまで経験則に乗っ取っている

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日本への渡来が室町時代とされるのは 和紙の原料として認知されたのが戦国時代であったことから
若干遡る室町期とされたのが通説となっているが それより以前の古代では「さきくさの」という言葉が
「三つ」ということばの枕言葉として使われていたことから 枝が三つに分かれるミツマタを「さきくさ」と
呼んでいたと言語学上において考えられている 「さきくさ」の由来については 春の到来を告げるように
一足早く春らしい明るい黄金色の花を開花させるため 先草と呼ばれたという説がある
他にも「三」が縁起のよい数字からミツマタが縁起の良い草とされ「幸草」と呼ばれたという説も存在する
残される「さきくさ」の最も古い使用例は 万葉集に柿本人麻呂が詠んだ
「春されば まず三枝(さきくさ)の  幸(さき)くあれば 後にも逢むな 恋ひそ吾妹(わぎも)」で
意は「春になれば まず咲く「さきくさ」の名のように幸せであるならば
またいつか逢うことができるでしょう 愛しい人よ」である  このことから 万葉の時代には
すでに渡来していたと考えられ 奈良時代から和紙の原料として利用した雁皮(ガンピ)も ミツマタと同じ
ジンチョウゲ科に属していることから ミツマタも和紙の材料として認知されていたという説も存在する
ともあれ ミツマタの名で和紙の原料として登場するのは 戦国時代になってからであった

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平安時代には産業として和紙が漉かれたが 貴族が和歌の詠草に愛用した斐紙(雁皮紙)の原料となる雁皮は
野生種であったため生産量が少なく高価であった 鎌倉時代に入ると武士階級による中央集権統治が進み
行政でも また一般庶民においても紙が多用される他 住居にも用いられ社会全体において紙の需要が増した
このため製紙原料として 植栽が比較的簡単な楮(コウゾ)や(ミツマタ)が普及するようになった
ただミツマタは繊維が短いため品質が悪く 雁皮紙や楮紙に比べると 庶民が使う低価格低品質の紙という
認知であった ミツマタが製紙原料として表記された初の文献は 慶長3年(1598)
伊豆修善寺の製紙業文左右衛門にミツマタの伐採使用を許可した黒印状で
「豆州ニテハ鳥子草、カンヒ、ミツマタハ 何方ニ候トモ修善寺文左右衛門ヨリ外ニハ切ルヘカラス」とある
「カンヒ」はガンピ「鳥子草」はオニシバリで ミツマタを加えた三種の使用が許可されている
天保7年の大蔵永常著『紙漉必要』に「常陸、駿河、甲斐の辺りにて専ら作りて漉き出せり」とあり
ミツマタが主原料であったことが記されている 幕末の文政12年に著した佐藤信淵の『草木六部畊種法』には
「三又木の皮は 性の弱きものなるを以て 其の紙の下品なるを なんともすること無し」とこき下ろし
対策として 楮(コウゾ)と混合すべしと説いている ミツマタが和紙原料として脚光を浴びるのは
明治政府が紙幣用和紙に 栽培が容易なミツマタを原料としたことである 先に述べたようにミツマタは
繊維が短いため悪紙とされてきたが この性質が機械漉きに適していることから大量生産向きとされた
現代では 国立印刷局に納める「局納みつまた」は 岡山県・徳島県・島根県の3県だけで生産されているが
使用量の多くは ネパールや中国から輸入されたものである
紙幣の他には証券用紙にも使われ 薄く漉いたものは謄写版原紙としても利用されてきた
栽培は種子を播いて苗を仕立て 植栽後3.4年目から毎年枝を刈り取り 以降20年間は収穫ができる

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花言葉は 永遠の愛・肉親の絆・強靱・壮健
永遠の愛は花の姿 肉親の絆は三本に分かれた枝を両親と子にたとえて 強靱と壮健は強い繊維質の樹皮から

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